ちびくろさんぼ

絵本「ちびくろさんぼ」が復刊する。
さいころ、絵本やテレビでこの話を何度も読み聞いた。
さんぼの機転が小気味よくて大好きな話だった。
さんぼのマネをして、家の柱を木に見立ててぐるぐる回って遊んでいた。


その「ちびくろさんぼ」があるとき突然廃刊になった。
カルピスのマークも変わった。ダッコちゃんもなくなった。
まだ子どもだった私にはぜんぜん理由がわからなかった。
黒人差別というけれど、そんな気持ちでさんぼやカルピスに接したことは一度もなかったから。


主題が人種差別であったり、特定の人種を揶揄する内容ならともかく、
ちびくろさんぼは人種差別がメインの話ではない。
これまた私の大好きな「ドリトル先生」も差別的表現があるが、それも枝葉の部分だ。
主人公が、いろいろな世界でワクワクドキドキするようなことをしてくれる。
そんな夢のある物語がメインのはずだ。


子どもたちは本を読んで差別心を抱くのではなく、
まわりを取り巻く大人たちや社会の反応から差別心をもつ。
物語が差別を助長するのではない。
同じ話でも、さんぼが黒人で能力がなく…など穿った伝え方をすれば差別につながるだろうし、
機転があって活き活きとした人物として伝えれば、逆に尊敬できるだろう。


そして、過去の価値観を隠蔽せず、歴史としてそのまま伝えることが大切だ。
子どもたちには汚い情報や悪い情報は極力与えないようにする人もいるが、
大人になってからは判断してくれる人はいない。
小さいときこそ、いろんな情報を与え、判断し取捨選択する術を教えるべきではないか。


復刊するちびくろさんぼを通して、私たちは何を伝え、子どもたちは何を学んでいくのか。
そういう議論はほとんどされることがなく、
十数年たってまた最初の位置に戻ってきたような気がする。
もしさんぼがいたら、ぐるぐる回る私たちの議論をひょいっと解決してくれそうなのになあ、と思う。

差別批判で絶版、「ちびくろ・さんぼ」復刊へ…瑞雲舎